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「検索エンジンや人気Webにカスタマイズされずに“情報自立”しよう」
「マーケティング・ホライズン」 '07.1月号

 インターネットが登場して約20年、Webが実際に商用化されてから13年、その間我々の生活やワークスタイルは劇的に変化した。しかも、インターネットとデジタル化の技術革進化スピードは、留まるところを知らずネットユーザーは世界で10億人に達している。一昨年から人気のブログは、もはや定着。更に、新しいコミュニケーション・ツールとしてSNSも脚光を浴びている。日本を代表するミクシーは会員数600万人、マドンナも会員になっている米国マイスペースは全世界で会員数が1.2億人と急拡大し期待を高める。

市場の動きを見ると、社会主義国の市場経済化により一挙に30億人が新たに参入し巨大市場が誕生した。しかも、インターネットやWebは“絶大な平等化要因”を提供し、国際企業だけでなく個人が主導するグローバリゼーションが可能になってきた。

創業1年半で16.5億ドルの価値 「You Tube」

’06年度のインターネット世界の話題は、なんと言っても動画投稿サイトYou Tubeである。毎日6〜7万件のコンテンツがアップされアクセス数は1日1億回を超える。違法コンテンツや収益モデルなど様々な問題をかかえているが、その勢いは留まるところを知らない。創業は、‘05.2月。設立から2年足らずで世界中に新しい動画投稿という新しいスタイルを定着させた。「動画を投稿する、見て楽しむ、評価する」というサービスを世界規模でしかも猛スピードで普及させたのである。最初は、相手にもしていなかった既存メディアもYuo Tubeが米国3大ネットワークの視聴者総数を超えるに及んで、瑣末な事で敵対的な関係を作りより、むしろ、提携したほうが得策と考えるようになった。NBCは、自社コンテンツの配信を開始。ユニバーサルミュージックなどはプロモーションメディアとしてコンテンツを提供し始めている。これらの動きは“供給側が編集して番組を流す”という既存メディアのあり方を根本的に問いかけている。

快進撃を続けるGoogle

‘98年にサービスを開始したGoogleの動きも相変わらず凄まじい勢いがある。‘05年度売上は、約7000億円、’06年度は約1兆円に迫る。グーグルは、数十万台のサーバーを動かし世界中のWebサイト情報とGメール内容を把握している。 “Web上の集合知は正しい”という理論の基づき、世界中のWebコンテンツを「ページリンク」技術により最適な検索結果をユーザーに提供している。そしてユーザーの興味関心事項であるキーワード検索、Gメールの内容に合わせて広告を表示し、それを収益源にしている。個人情報やプライバシーの侵害を懸念する声もあるが、便利な機能やコンテンツが無料で使えるというのは魅力である。また、ローカライズを基本にしているため、ユーザーは米国外でも約8割にも達し、もはや検索の世界インフラになっている。

グーグルのビジネスモデルで特徴的なことは、マイクロソフトが過度な市場支配により独禁法違反で訴訟されている現実を踏まえ “提携戦略”をとって世界市場の拡大を狙っていることである。

“グーグルゾン”は最強か

“EPIC2014”という近未来メディアストーリーが話題になった。検索エンジンに強みを持つグーグルとリコメンデーションでノウハウを持つアマゾンが‘08年に合併して「コンテンツと広告のカスタマイズ化」により最強のWebビジネスが誕生。’14年には、よりカスタマイズした記事を自動作成し配信する「進化型パーソナライズ情報網」を構築。そして20世紀のマスコミは姿を消し、NYタイムスは、「ささやかな抵抗の姿勢としてエリート層と高齢者向けにオフラインする」という落ちである。“残念ながら”、その予測通りにならずNYタイムスはWeb部門が好調で「新聞編集部門」と「オンライン版編集部門」を統合し新たなジャーナリズムを目指している。とはいえ、その予測には真実味がある。

その快進撃の前に立ちはだかるものは

 凄まじい成長力を持つグーグルやアマゾンだが悩み事はある。それは、インターネット上の“ただ乗り”や“過剰なトラフィック”を制限しようという動きである。日米欧の大手通信事業者は、莫大な設備投資をしているが、熾烈な料金競争で採算が悪化している。それに反し、グーグルなどはインフラの使用料を払わず、検索用コンテンツは“世界中のユーザーが無償で協力”してくれることによって莫大な利益を上げている。それらの動きを牽制するように、通信事業者のトップから「グーグルなどの巨大トラフィック・プロバイダーは追加負担をすべき」、「我々は、回線投資に見合う収益を上げなければならない、誰にもただ乗りはさせない」との意見が出始めている。日米大手通信事業者が、政治を巻き込み規制に向けた動きを始めているのである。その結果如何によっては、インターネットのオープン性、中立性、自由性が阻害される恐れもある。

 大手の通信事業者にとっては、自社回線でのトラフィック利用促進という意味では、コンテンツプロバイダーとの協調体制が重要である。しかし、電話使用料などの減収や成長性の低下が予想される中、自社の収益源を確保するために“公正な負担”を求め始めたのである。更に、規制緩和時に分割され過ぎた反動として集約化や規模の拡大に突き進んでおり寡占化が予想される。

勝ち組が益々強くなるWebの世界

Web上の様々なサービスは、もはや必要不可欠のものになっている。特に検索エンジンやパーソナライゼーションは極めて便利である。世界中の約800億サイトの情報が自分使用で検索し新しい情報が取得できるのは魅力である。そしてこれらの情報取得には大きな特徴が見られる。世界中のユーザーがグーグルやヤフー、アマゾン、ウイキペディアなどの少数の人気サイトに集中しているのである。

また、SNSは多様化したが故に自分の存在感を確認したり、同質な仲間との関係性を求めるコミュニティであるから均質化傾向はより一層高まる。あるいはまた、人気投稿サイトなどでは、“オススメ”や“ランキング”などの仕組みにより、より人気の高いコンテンツに集中する事になる。しかもこれらの動きはネット上だから、世界中で同時に起きるのである。その結果、Webの世界では、極めて少数の勝ち組とその他大勢に分かれる。

マーケッターは「バランスの取れた情報摂取」を

ネット社会は人類史上でもたった10数年の出来事である。情報洪水や格差、そしてインフラの脆弱性など様々な問題をかかえているが必要な社会インフラになっている。しかし、危惧される事がある。Webサイトの一極集中化が進んでいることである。また、検索エンジンは便利な機能であるが、せいぜい上位10位の検索結果しか取得せず“情報の偏り”や“情報誘導”が起きる。パーソナライゼーションは、時間と労力を節約し関連する情報を配達してくれこれもまた役に立つ。しかし、機械が自動的にユーザーの情報領域を規定するため自分の履歴に関連した情報しか入ってこなくなる。即ち、自分の経験値以外の情報が取得できなくなる。その結果、意外性や偶察性の新しい知の創発連鎖が起きにくくなる。そして世界中の人々が同じ情報に基づき考え判断するようになる。そうすると“同質化”や“付和雷同化現象”が世界規模で起きることになるのである。

知識情報社会では、生産装置や資本に変わり人間の知恵が収益源となる。新しい価値創造は差別化にある。マーケッターは人気Webに誘導化されることなく多様性を受け入れ、リアルとバーチャルのバランスを取りながら自らの判断力を鍛え、“情報自立”することが望まれる。

(2007.1 /縄文コミュニケーション 福田博)