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“広告からPRへの流れが急加速”
「マーケティング・ホライズン」 '07.9月号

広告は認知を上げるのは有効だが、ブランドは記事や報道による広報PRによって創られる。例えば、グーグル。グーグルは広告費を一切使っていない。注目される様々な無料コンテンツや先進的なビジネスモデルを開発し続けているので、メディアが積極的に取材しその活動やメッセージが世界中に届けられている。そして、虫歯予防のキシリトール。白樺などからとれる糖セルロースが虫歯予防効果があると実証され、日本での販売に踏み切ろうとした。しかし、医薬品ではないので効果効能を広告で訴求できない。そこで、関連する客観的研究情報を医学会やメディアに提供し続ける"アカデミックPRキャンペーン"を地道に行った。その結果、認知率0%('97)を翌年には99.8%と拡大し、現在では、虫歯予防の食品添加物として市場シェアの66%を獲得。素材メーカーが消費者に直接知ってもらうためのPRが大成功した事例である。

マスメディア以外の動きを見ても面白い。PC/Web上でもPRの影響が大きくなっている。ニュースポータルサイトやプレゼントサイト、そして新商品情報などでは口コミを喚起するブログの影響力である。アルファーブロガー達の新商品評価を多くのネットユーザーが見て購買の参考にするスタイルが定着している。企業関係者が意図的に誘導情報などを書き込んだりすると逆効果になり、ブログ自体が炎上する事にもなる。また、10、20代には携帯がPR効果(口コミ)に絶大な威力を発揮する。携帯はメディアとしての機能やビジネスモデルがまだまだ発展途上であるからPRポテンシャルは高い。

このような動きの中で最近では、多くの企業が広告ではなく広報PRを強化している。この背景には、"砂漠に水、暗闇に鉄砲"と言われるマス媒体の広告効果の急激な低下と広告自体への消費者の不信感がある。消費者は、広告でなく媒体の信用力を背景にした記事や報道に信頼を置いているのである。広告は"クリエイティブを創るだけ"で、"クレディビリティはPRが創る"と言われる所以である、また、企業側から見れば、企業価値向上のため情報を効率的に的確に伝達したり、不祥事が発生したときに、事実を正確にタイムリーに伝えるため広報PR体制を整備する必要もある。一方、メディア側も膨大な情報を自社だけで収集・作成・編集するのはコストや時間の負荷が大きく、企業情報を積極的に活用して独自に編集して伝達するという構図にもなっている。そのようなこともあり広報PRは大変なブームになっている。

しかし、広報PRはそんなに簡単なものではない。広報PRは、有料で企業メッセージを伝える広告とは違い公的な情報価値が必要とされている。ニュースリリースを出しても必ずしも掲載されとは限らない。メディアに掲載するためのニュースバリューが必要なのである。しかも、企業からは、毎日数千のリリースが配信される。そして、記者への直接的なアプローチもある。その中での勝ち残りであるから、話題になるニュースバリューの開発は必須である。そもそも、情報を発信する企業が魅力的な商品やサービスを継続的に提供できる企業力があるかどうかが問われるし、商品やサービスにU.S.P.が無い企業にはPR効果は期待できない。また、担当記者が素人化する中、日頃から専門的な情報を的確に伝え、自社に興味を持ってもらう必要もある。つまり、メディアとの関係性を良好に保つための地道なメディアリレーション(MR)が大切なのは言うまでもない。

広報PRには、さらにいくつかの課題がある。ひとつは消費者保護の問題。消費者に誤解を招く恐れがあるとしてPR活動にブレーキをかける動きも出ている。例えば、大人気のプロダクト・プレースメントに対して米国の消費者運動家ラルフ・ネーダーはFCCに「消費者を混乱させている、広告としてキチント表示すべきだ」と訴えている。 また、人材の課題もある。PRは、広告と違いメディアとの信頼関係がベースとなるため、PRバリューを創り出す人間力やクリエイティブ力が求められる。

そしてPRの有料化の問題。営業収益が激減しているメディア側は、これだけニーズがあるなら有料の記事広告や編集タイアップ以外にもPR手法による収益モデルが開発できるのではないのかと考える。MTVはプロモーションビデオを有料化してグローバル・メディア・ブランドに成長した。ブルーム・バーグは、ローカルTV局制作の企業ニュースをあえて無料で世界配信することによりメディア・バリューを高めた。この様に、これからのPRにはビジネスモデル開発が重要なのである。広告とPRの中間領域は確実に需要があり、しかも大きい。今後、企業とメディアの知恵比べの中で、生活者のベネフィットを高める"新しいタイプのPR"が登場することを大いに期待する。

(2007.9 /縄文コミュニケーション 福田博)