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TV番組は、ブレンディッド・コンテンツになる
「マーケティング・ホライズン」 '06.6月号

 「良く利用するニュースサイトは」との質問にポータル/検索系サイトと答える人が85%と最も多く、新聞社系は第2位で47%、しかも前年対比で10%以上減少している(インターネット白書‘05)。

ちなみに、Yahooニュースの月間ユニークカスタマー数は、約3500万人、アサヒコムが約850万人、ヨミウリオンラインが約500万人と大メディアを大きく引き離している。

ご存知のようにポータル系ニュースサイトは、全国紙、地方紙、スポーツ紙、TV局などから有償でニュースを購入し、社名のクレジットや提供時間は表示しているが全体の編集はサイト側で行っている。

利用者は、好きな時に、興味のある各社のニュースを選択して閲読、視聴することが出来るサービスモデルである。

これまでTVや新聞などのメディアは、報道、娯楽、教養、文化、スポーツ、科学、芸能など独自に記事や番組を編集・編成してお届けしてくれる、いわゆる“定食メニュー型コンテンツ”が基本であった。

視聴者や読者は、各メディアの番組制作力や取材力を信頼し、提供される番組やニュースを当たり前のように視聴・閲読していた。しかし、この視聴・閲読スタイルは大きく変わり出している。

TVの場合、視聴者の番組に対する嗜好やメディア接触態度の変化、そして多チャンネル化による多彩なコンテンツの提供などの環境変化に加え、放送通信分野のイノベーションによるビデオ・オン・デマンド(VOD)やP2P型放送、サーバー型放送サービスなどがその動きを加速している。

結果として、視聴者は、お仕着せの「幕内弁当スタイル」の番組編成ではなく自分のライフスタイルに合わせ時間を気にせず(タイムシフト視聴)、番組を自分の好みで選べるという“単品メニュー型”の番組視聴スタイルが普及し始めている。

今後、さらに次世代配信プラットホームや情報端末のPCとTVとの融合技術が進化すれば、お仕着せの番組や単品選択の面倒臭さが解消され、気楽に受動的に“見たい時に、見たい番組を、見たいだけ”しかも“自分の好みの編集で”という視聴者主権が可能となる。

即ち、膨大なコンテンツ洪水の中からEPGを利用し自分好みに番組を選択・編集・蓄積・配信させるという“ブレンディッド型コンテンツ”化時代の幕開けである。

この様な変化は、何もTVに限ったことではなく、新聞についても言える。“紙”というメディアは近い将来、激減が予想され、代わりに自分好みのコンテンツを自動編集してフレキシブルなシート状フィルムで閲読することが当たり前になる。当然、活字や写真だけでなく動画も含めた“ブレンディッド型コンテンツ”である。

コンテンツ供給サイドの動きにも変化が起きている。ひとつの作品を劇場公開、ビデオ、地上波までの露出タイミングを調整し、利益の最大化を狙うというウインドウ戦略は、メディア選択の最適化とサイクルタイムを速め、企業力を拡大させている。当然、TVという情報端末を支配するのはTV局とは限らない。

通信事業者だろうがコンテンツセクターだろうが顧客の好みを掴まえたプレイヤーが勝ちである。

TV番組のブレンディッド型コンテンツ化の実現に向けてはいくつかの課題がある。まず、著作権の問題である。各局の持つ“新番組”、“再放送”キラーコンテンツを提供する場合、各局の経営戦略とも絡むが著作権問題の解決は必須である。現在、著作権料率を含め様々な論議が進められており近々法整備がなされる。

次が、コンテンツの流通市場形成、即ちシンジケーション市場の育成である。これは、需要サイドの動きやコンテンツ制作・流通企業の戦略、そして放送・通信業界による業態転換の中で実現すると思われる。そして次が、自分の番組嗜好傾向やメディア接触態度を把握し“マイチャンネル”化を構成する要素技術のイノベーションである。

これに関しては、“好み”を解析予測する人工知能、サーバー、デバイス、配信インフラ技術など激烈な開発競争の結果、格段に使いやすいサービスが提供される。

最後は、ビジネスモデルである。TV番組のブレンディッド型コンテンツ配信ビジネスにおいては、MTVがわずか10年で“顧客のお気に入りと信頼を獲得”し、グローバルメディアになったように、メディアとしてのブランド戦略が重要になる。さらに顧客嗜好の把握力、番組編成力、制作・仕入れ力に加え、未来を先取りしたコンシェルジェ要素も必須である。

そして、無料広告モデルと課金モデルの折衷案だけでなく、アフィリエイトやメタデータを利用したEコマースなどの事業展開も含めた複合モデルになることが予想される。当然、シンプルで誰でも分かりやすいビジネスモデルになることは言うまでもない。

(2006.6 /縄文コミュニケーション 福田博)