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目指せ、コールセンター2.0!
「マーケティング・ホライズン」 '06.10月号

 コールセンター(CC)業界は、経費削減を狙った営業のアウトソーシングや地域自治体の雇用促進策とも相まって順調に伸びてきた。

しかし、最近では、設備と人員の過剰投資に伴う価格競争や、急激な規模拡大によるマネジメントや応答品質の低下、アウトバンドの効率性低下、そして、ストレスの多い督促系業務などは、オペレーターの確保など様々な問題に直面している。

一方、顧客側から見ても、過剰な売り込み電話に対する苦情や対応の悪さに不満が続出している。在宅時間を狙って夕食時にかかってくる営業系アウトバンドなどは迷惑な話である。これなどは、企業側の営業コール専用固定電話端末のコストを生活者側が負担している事にもなる。

また、IVR(自動音声応答)というのがある。電話をかけ、番号を押しながら進んでいくと最後に「ただ今混んでいますから、後程おかけ直し下さい」というやつである。2〜3分待たされた挙句の一言である。機能優先の装置であるが、顧客と企業とのブランド接点で門前払いをするというのは困ったものである。

しかも、顧客の不快感は、企業側に一切伝わらない。インターネットが市場導入された時、情報流は、企業から顧客へとパラダイムシフトした。そして、ビジネスモデル(BM)は顧客主導型に変化し、今では顧客が“商品開発”や“販売”など企業活動の一部に参画するまでになっている。

しかも、ネット業界は、Web2.0を目指し、様々なサービスを開発している。それに反し、CC業界は、相も変わらず企業側の意向で顧客に対応している。顧客主導がデファクトとなる中、当業界も新しいBMへの転換が求められる。

最近の動きを見てみると、単純作業で付加価値の低いCC業務などは、人件費の安い海外に移転する事例が増えている。日本の場合、言葉の問題も有り、日本語教育を奨励している大連などの中国都市に、米国であれば、英語圏であるインドなどに移転している。

今まで言語、習慣、民族、宗教などの様々な壁があったが、もはや、グローバリゼーションにより壁はない。“東京の隣は、上海”ということが現実に起きている。

また、米国のドライブスルーのハンバーガーショップなどでは、注文受付・確認・発注をするバックやードを遠隔地のコールセンターで行っている事例もある。集中して管理することにより誤発注が減り、また、一顧客当たりの処理時間が95秒から65秒になり大幅なコスト削減と顧客満足を同時に実現している。

そしてまた、CCのイノベーションも急速に進んでいる。例えば、音声認識と合成機能を持つ自然対話型IVRなどは、IPネットワークとVoiceXMLなどの音声処理技術の向上により不特定の顧客ともストレスなく対応できる。さらに、IP化された音声通話とWebが連携すれば、双方向映像での対話や音声認識による文字入力が可能になる。

また、音声操作による人とモノとのコミュニケーション技術により、テレビ、ケータイ、カーナビを通じて家電遠隔操作、セキュリティ、在宅看護など生活全般のサポートも実現できる。

このようなCCのユビキタス環境が整備されると、CCが顧客側の立場で店や企業の商品サービスに係わる手配、情報収集、生活管理などの新しいサービスが現実的になってくる。即ち、“コミュニケーター”が、顧客の生活情報のハブになり、購買代理や生活機能の代行など顧客のためのライフ・コンシェルジェ・センターが可能になってくる。

CC本来の魅力は、“生の声”でコミュニケーション出来ることにある。人間関係が希薄になるなか、トークスクリプトに縛られマニュアル的に対応するのではなく “人間の心”で顧客の依頼に応えることは価値のあることである。人間的な会話を求める人、客観的に商品購入の相談をしたい人、Webが苦手な高齢者の方には、“人間を感じられるコミュニケーター”への需用は高い。

また、この仕組みの延長線上には、下請け的なアウトソーシング受注ではなく、顧客接点業務での蓄積と経験を活用して、顧客起点で企業全体のバリューチェーンを見直し、最適なオペレーションを提言・受注するという“インソーシング”への業態転換の可能性も出てくる。

BMも、企業からの販売手数料やコンサル費、オペレーション費、顧客把握によるターゲティング広告費、あるいは、個人情報保護法に抵触しない範囲でのインフォミディアリ事業も考えられる。

コールセンター業務は、顧客に一番近く、顧客とのコミュニケーションスキル・ノウハウが膨大に蓄積されている。それらの経営資産を有効に活用し、顧客にとって利便性の高いコミュニケーション・モデルへのチャレンジが期待される。

(2006.8 /縄文コミュニケーション 福田博)