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見えてきた次世代インターネット
「マーケティング・ホライズン」 '06.1月号

 スカイプの利用者が世界中で急増している。日本で150万人、全世界では約7千万人のユーザーがいる。スカイプは、ブラウザをダウンロードし、PCにヘッドセットを接続するだけで、ユーザー相互の通話が、国内、国外問わず可能となる。

 この技術は、P2P技術を進化させたもので既存のインターネットインフラの機能をユーザーのPCにも行わせようというものである。さらに、現在ベータ版ながらVスカイプといわれるTV電話ソフトが世界中に爆発的なスピードで出回り始めている。驚くのは、これらのサービスはスカイプユーザー同士であれば無料で利用できるのである。

 しかも、ルクセンブルグの小さなベンチャーが開発したこのスカイプをeBayが26億ドルもの金額で買収したのである。「Eコマースとコミュニティのコミュニケーション・エンジンとしてスカイプを活用する」とのこと。このことは、次世代インターネットの可能性とその動きを加速させる大きな出来事といえる。

 次世代インターネットは、世界中のIT関連企業や投資家を巻き込んで激烈な技術とビジネスモデルの開発競争が繰り広げられているが、大きく2つの特徴がある。

 まず、サービスの無料化の動きがある。Yahoo!の検索サービス、Googleの衛星写真を使った地図検索などの無料サービスは、世界中のユーザーから圧倒的な支持を集めている。当然、コンテンツ制作コストは、莫大な金額になるが、広告モデルで回収し、高い収益を確保している。さらに、アプリケーションの無料化の動きである。

 あのマイクロソフトが、googleやYahoo!に刺激され、広告モデルによる「ウインドウズ・ライブ」、「オフィス・ライブ」というビジネスモデルを発表して話題になっている。これは、様々なアプリのパッケージを有償で販売するというこれまでのビジネスモデルを大転換し、「ネットを介して目的に応じてアプリが使える」というサービスを “殆んど無料”で提供しようとするもの。この動きにより、ネット利用がさらに拡大する。

 次の特徴は、ネットコミュニティが大きく進化することである。現在のインターネット技術では、人間のコミュニケーション能力に充分対応できていない。しかし、P2P技術やグリッド・コンピューティングなどの技術進化により、操作も容易になり高精細動画を始としたマルチメディア・コンテンツの自在な情報流通を可能にする。これは、ネット上での人間の表現力や商品のリアリティさを格段に高める。結果として、コミュニティの新たな展開や参加利用者を飛躍的に増大させる。

 つまり、SNSなどをさらに発展させるだけでなく、ポテンシャルの高いコミュニティが自ら情報を発信し、感性や情緒的価値も含めたコミュニティ間相互の質の高い交流が加速されることも意味する。即ち、(コミュニティ)to(コミュニティ)化の動きにより、コミュニティ相互が影響し合い、共振し、新しい価値の創発が期待されるのである。

 この様な次世代インターネットの動きは、企業のマーケティング活動にも大きな影響を及ぼす。優れたブランドコミュニティは、商品サービスのパフォーマンスだけでなく顧客に心理的充足感も満たしてくれる。それが、強いブランドコミュニティ相互の “異文化コミュニケーション”により、新しい魅力的な付加価値の提供も可能になる。そして、Win−Winのブランド・コラボレーションの相乗効果は、より強い磁力になり、多くの多様な顧客をひきつける。

 最近では、紀文とデルモンテの「豆菜食房」、コカコーラとカルピスの「L−92」などのコラボブランドの動きが注目されているが、お互いに“勝ち馬に乗る”強いブランド同士の提携は、新しい商品開発、プロモーションの切り口として顧客に分かりやすく市場も把握しやすい。

 ネット上でのオープンでより自在性が高いブランドコミュニティは、コラボにより、顧客の“見えざる欲求”を炙り出し、新しいムーブメントを創造することもできる。

 次世代インターネットでは、”人間がネットに合わせる“状況から、” ネットが人間により近づく“。断層的技術変化の時代、企業にとって大切なのは、インターネットの進化を予測しながらそれに対応するいくつかのビジネス・オプションを設定しておくことである。

(2005.12 /縄文コミュニケーション 福田博)