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“魔法の水”でゴミの山から“お宝”抽出

この記事は日経ネットに転載されました。

NIKKEI NET BizPlus - 「”魔法の水”でゴミの山から”お宝”抽出」

「マーケティング・ホライズン」 '05.8月号

 亜臨界水というのをご存知だろうか。
 通常、水は1気圧の下、0℃で固体となり、100℃で沸騰する。さらに加熱していくと高温の水蒸気になる。最近、話題の商品になっているシャープの家庭用オーブン「ヘルシオ」は、この“過熱水蒸気”を利用している。火もマイクロ波も使わず、常圧の下、水を100〜300度まで上げた過熱水蒸気だけで“食品を焼く”のである。通常のオーブンと違って余分な油を落としながら焼き上げるので健康ブームに乗ってヒット商品になっている。
 亜臨界水というのは、過熱水蒸気と違い“水”を高温高圧化したものである。即ち、水を完全に密閉した状態で圧力を高めていくと、220気圧で374℃に達し、水と水蒸気の密度が等しくなり液体でもなく気体でもない不思議な流体になる。これを臨界点と呼び、臨界点以上の状態を超臨界水、それより下の状態を亜臨界水という。超臨界水は、分解力が強すぎるが、この亜臨界水は、有機物を加水分解(高分子の鎖を絶つ性質)して有価物を取り出したり、物質や油などを溶かす(強い溶解力)という画期的な物性を持っている。

 亜臨界水研究の第一人者である大阪府立大学の吉田教授は、その特性を利用してゴミとなる「魚のあら」から様々な“有価物の抽出”に成功している。健康食品として大人気のDHA(ドコサへキサンエン酸)、EPA(エイコサペンタンエン酸)(これらは、中性脂肪に効果的)、カルシウム、リン、アミノ酸、さらに、乳酸などの有機酸(生分解性プラスティックの原料)、液肥、食用油、バイオディーゼル油(すすが少ない)などである。これ自体が、付加価値の高い新たな商品となる。再利用可能な有機性廃棄物は、これだけではない。生ゴミ、食品廃棄物、畜産糞尿、肉骨粉、下水汚泥、廃木材などのからも有価物が抽出されることが実証されつつある。

 また、亜臨界水は、有機性廃棄物の処理でも、すばらしい効果を発揮することが最近分かってきた。現在、日本では、一般廃棄物、産業廃棄物と合わせて年間4.6億トンのゴミが発生する。その内、有機性廃棄物は、約8割にも達する、
 従来、食品廃棄物、家畜の糞尿などの有機性廃棄物の処理は、焼却、乾燥、コンポスト化、埋立てなどの手法により行われてきた。しかし、大量のエネルギー消費、周辺地域への影響、安全性、残渣の処理など多くの問題点を抱えている。しかも、各自治体とも将来的に既存の処理施設や処分場だけでは対応できないのが現状である。最近、注目されている生ゴミや糞尿処理で行われている微生物によるメタン発酵バイオガス発電でも、反応速度やガス化率(30%)が低く、また、大量の汚泥処理が課題になる。ところが、亜臨界水技術を用いるとメタン発酵などの処理方法に比べ、分解速度、残渣処理、発電効率、コスト効率などで著しい効果を示す。しかも、有価物が抽出され“資源”として再利用できるのである。

 国連大学で提唱されたゼロ・エミッション構想「資源の浪費を押さえ、廃棄物を限りなくゼロに近づけようとする資源循環型社会を目指す」は、世界的に見ても待ったなしの状況である。日本でも、環境と調和する資源循環型産業社会を目指して、国、企業とも様々な取り組みをしている。しかし、焼却や埋立処分では限界があるし、有機性ゴミを廃棄したのでは再利用できない。
 亜臨界水技術は、比較的扱いやすく、しかも原料が“水”である。この実用化施設は、小規模で稼動できるので、食品工場、大規模店、ホテル、畜産場など有機性のゴミを排出する事業所内に設置するのに向いている。
 企業のCSRが注目される中、食品メーカーや流通業の食品廃棄物“ゼロ・エミッション”活動の一環として、また、新たな収益源確保を目指して“魔法の水”亜臨界水で「ゴミの山からお宝」を抽出してみてはいかがであろうか。

(2005.06.21/縄文コミュニケーション 福田博)